
4月27日(木)の午後3時過ぎ。
教会員の寿子さんのご子息、望(のぞむ)さんが日々をお過ごしのお部屋を、わたくし(牧師のもりでございます)と美樹さんの二人でお訪ねしました。教会から車で45分程あれば着くところです。
望さん、ある病院内に併設されている病棟の四人部屋の窓辺のベッドで、軽い点滴を受けながら、数日前から発熱もあったそうですが、穏やかにお過ごしでした。お熱がでることもよくあるそうです。
以下、寿子さんのにっこり笑顔での了解のもと、ご報告を兼ねて記させて頂きます。
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寿子さんのご長男の〈のんちゃん〉。
お母さんのお腹の中からこの世に出てくるその時に、重大ないのちの危機に直面。
おそらく、母子共に危険な状態だったのではと想像します。
でも、神さまからいのちを与えられて、去年、病棟内での成人式を迎える人生の旅路を過ごして来られたそうです。
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のんちゃん
お母さんの寿子さんをはじめ、ご家族、そして、医療の分野、福祉関連の皆さん、教育畑の方々、また、地域の方たちに支えられて今に至っておられることをうかがいました。
ベッドの傍らで、そして、その後、病院の中にある、気持ちのいい景色の見える快適な空間に腰を下ろして、のんちゃん関連のことも含めてあれこれ語らいました。
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のんちゃんが日々を過ごしている施設は、入所希望が70人待ちというような状態と言われていたと思います。
ところが、全く思いがけず、2年程前に、「息子さんをお迎えする準備ができました、いかがなさいますか」という連絡を受けたそうです。
本来ならば、何年も、何年も待ち続けても入所は困難。そんな状態だとお母さんの寿子さんは思われていたようですが、他の方たちよりも優先して、「どうぞ、お出で下さい」という連絡が入ったと言われました。
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寿子さん
高校卒業までの18年と少し、ずーっと、一緒に居ることが当たり前だったのですから、施設の方々にご子息を預け、委ねることには、わたしたちには想像もつかないような逡巡があったと仰っていました。
「それ位、息子の状態は重症であると判断されたということだったんです。わたしとしては、首も据わらない息子の状態が当たり前で、入浴から、学校関連のこと、時々お世話になる救急車での搬送なども幾度もあり、慣れてしまっていて普通のことになっていました。でも、お医者さまやスタッフの方たちからすれば、そうじゃなかったということなんです」
そんなふうに教えて下さいました。
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さてさて、ベッドの傍らに三人が立って、しばらく様子をうかがったのちに、リクエストも頂いていた三つのことをいたしました。
一つは、賛美歌をぜひ息子の傍らで歌って頂けますかというもの。4人部屋なのでちいさな声になるかも知れませんが、それで構いません、と聞いていました。
二つ目と三つ目はセットのようなものですが、聖書を読んで、息子のためにお祈りをお願いします、ということでした。
もちろん、ごくごく当然のこととして、そうしてさし上げたかったのですが、お母さまの寿子さんから、なるほどと思われることをうかがっていました。
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「息子のために、何かをしてあげなくちゃ、と目の前のことでずっと走り続けて来ました。でも、お祈りをお願いします、ということは考えることが出来なかったし、それが出来ないままでした」と事前にも、お部屋を出てからもお聴きしたのです。
のんちゃん
誰かの呼びかけに、応えることは、基本的にはありません。お話もなさらない。
食事もいつからだったか明確に記憶できませんでしたが、今は胃瘻と呼ばれる形でとっておられます。
そんな中でしたが、わたくし、ベッドで寝ているのんちゃんの左手を握ったり包んだりしながら、話始めることにしました。
「のんちゃーん、お母さんの教会の森先生だよ。これから賛美歌を歌うよ、聖書を読むよ、お祈りもしようね」と。
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賛美歌は三つ、選んでました。
まず最初は「讃美歌21-490番 かみさまに感謝」でした。
かみさまに 感謝しましょう、
ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ。
かみさまは よいものをくださった、
ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ。
「よいものをくださった」を「望くんをくださった」に代えて、歌いました。
その他、「いつくしみ深き」(21-493)と、「貴きイェスよ」(21-67)という寿子さんの洗礼式の時に歌った賛美歌を歌いました。
のんちゃんの手を握りながら。
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その後、聖書を読む頃だったのか、賛美歌を歌っている頃だったか、のんちゃん、うとうとし始めました。
いつものことなのかなぁ、と思っていましたが、どうやら違うようです。
お母さまの寿子さん「緊張して、体が硬直していることが多いのに・・・」と言われました。
手を握ったり、触っているわたしも心地よかった、というのが本当なのですが、どうやら、その気持ちの良さは、のんちゃんにも伝わっていたようですし、のんちゃんも気持ちよかったのだと思います。
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そうです。
のんちゃん、何かを感じていてくれたのです。
「いつの間にか、おじさんみたいな声をだすようになって」とお母さんが言われる場面がありました。
声を出すと言っても、お話ではありません。苦しいから、「うー」なのか、たまたま、「あー」なのか。
でも、スヤスヤ、うとうとし始めたのんちゃん。
安心してくれたのかな、と思います。
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「望くんの名前が出てくるよ」
そんなことを言いながら、ヘブライ人への手紙11章1節を読みました。
【 信仰とは、望んでいる事柄を確信し、
見えない事実を確認することです。】
わたし自身の言葉でもお祈りしましたが、しめくくりは、礼拝の最後の祝福でも祈る、民数記6章23節以下の祝福の言葉にしました。
【 主があなたを祝福し、あなたを守られるように。
主が御顔を向けてあなたを照らし あなたに恵みを与えられるように。
主が御顔をあなたに向けて あなたに平安を賜るように。】
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シンガーソングライターの中島みゆきさんの歌に、こんな歌詞が出て来ます。
Remember 生まれた時 だれでも言われた筈
耳をすまして思い出して 最初に聞いた Welcome
Remember けれどもしも 思い出せないなら
わたし いつでも あなたに言う 生まれてくれて Welcome
Remember 生まれたこと
Remember 出逢ったこと
Remember 一緒に生きてたこと
そして覚えていること
(中島みゆき・作詞作曲「誕生」より)
神さまからのお言葉とお祈りと同時に、こんな思いも携えて行きたいと思っていました。
そして、この日の訪問では、のんちゃんに、その心の、ほんとうに一部かも知れませんが、お届けできたのかなぁと感じています。
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のんちゃん
いつかクリスチャンになってくれる日が来るのではなかろうか。
そんな祈りを持ち始めています。のんちゃんの信仰告白は、手をつないで賛美し、聖書を読み、みんなで祈る。
その時に、眠り始めてくれたらそれでいいんじゃないか。
わたしは、今、そう思っています。
邂逅(かいこう)というような言葉でも言い尽くせない何かを感じて、教会に帰って来ました。
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木曜日でしたから、夜は祈祷会です。
お母さまの寿子さんもレギュラーメンバーです。
美樹さんがカメラマンになってくれて撮影した、この日の望くん訪問の様子を、皆さんにパソコン画面で紹介。
「讃美歌21-490番 かみさまに感謝」を再び歌いました。
歌詞を読み替えるところは、のんちゃん、寿子さんと入れ替えて、賛美できました。
豊かな一日でした。深い一日でした。
神さまはすべてをご存知です。のんちゃんをこの世におくって下さったのは神さまです。
寿子さんも、わたしたちも、それぞれに新しい芽吹きと息吹を頂いた。
そんな気持ちで今過ごしております。end